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催眠術師の私から見た「反応しない練習」という本

今回取り上げるのは、**反応しない練習**です。

著者は僧侶であり、仏教の教えを土台にしながら、現代人がなぜこんなにも疲れやすく、傷つきやすく、生きづらさを抱えているのかを非常に整理された言葉で説明しています。私はこの本を、癒しの本や精神修養の本としてではなく、無意識の反応システムをここまで正確に言語化した本は珍しい、という視点で読みました。催眠術師として日々人の無意識に触れている立場から見ると、この本で書かれていることは、催眠の現場で実際に起きている現象と驚くほど一致しています。

この本の中心にある考え方は単純です。

人は出来事に苦しんでいるのではなく、自分の反応に苦しんでいる。誰かに言われた一言、思い通りにいかなかった出来事、不安を感じさせるニュース。それ自体が人を苦しめているのではありません。それに対して無意識が自動的に起こす反応、そしてその反応を「自分だ」と信じ込み、何度も頭の中で再生し続けてしまうことが、人を疲れさせています。催眠術の視点では、これは外部刺激に対して条件反射的に暗示が作動し、その暗示を自分自身で強化し続けている状態です。
多くの人は、怒りや不安や落ち込みを「自分の性格」だと思っています。しかし催眠の現場では、それらは性格ではなく、単なる反応のパターンであることがよく分かります。反応は起きます。止められません。それは人間の仕組みだからです。反応しない練習が優れているのは、この点を否定しないことです。感情を消そうとしない。我慢しろとも言わない。ただ、その反応を育て続けなくていいと示します。これは非常に重要です。反応そのものよりも、反応を握りしめ続けることが苦しさの原因だと、明確に線を引いています。

催眠術で言えば、暗示が一瞬入ることと、その暗示に自分で乗り続けることは別です。

不安がよぎるのは自然です。しかし、その不安を何度も思い返し、意味づけし、未来の最悪のシナリオを作り上げていくのは、無意識による自己強化です。反応しない練習は、この自己強化の回路を止める方法を、意志や根性ではなく、観察という形で示します。
この本で繰り返し語られる「気づく」という姿勢は、催眠術師から見ても非常に本質的です。怒っていると気づく。不安になっていると気づく。落ち込んでいると気づく。それ以上のことはしなくていい。この「気づき」は、感情を分析することでも、理由を探すことでもありません。ただ、今起きている反応をそのまま見るという行為です。催眠術の現場では、無意識で起きていた反応に意識の光が当たった瞬間、暗示は力を失い始めます。なぜなら、無意識は「自動」で動いているものだからです。自動運転に意識が介入すると、同じ勢いでは進めなくなります。
反応しないとは、無感情になることではありません。この点は何度強調しても足りないほど重要です。感情は出ます。むしろ、きちんと感じます。ただし、それを自分そのものと同一化しない。怒りは「私」ではなく、「今、怒りという反応が起きている」。不安は「私」ではなく、「今、不安という反応が起きている」。この距離が生まれると、人は感情に飲み込まれなくなります。催眠術的に言えば、自己同一化が外れた状態です。これは深い催眠状態でもよく見られる現象で、感情が消えるのではなく、感情に巻き込まれなくなります。
なぜ反応を続けると人は疲れるのか。この本はそこも非常に現実的です。人は一つの感情を、頭の中で何度も再生します。あの時こう言われた。あの場面は失敗だった。次もきっとこうなる。こうして同じ反応を何度も再生し、意味づけを重ね、物語を作り直します。無意識はこれを現実の体験とほぼ同じ負荷で処理します。その結果、実際には何も起きていないのに、常に消耗した状態になります。反応しないとは、この再生ボタンを押し続けるのをやめることです。

催眠セッションが終わったあと、多くの人が「何も解決していないのに楽になった」と言います。

これは問題が消えたからではありません。反応のループが止まっているからです。反応しない練習が目指している状態は、これと非常によく似ています。問題を消そうとしない。ただ、反応を増幅させない。それだけで、心の消耗は大きく減ります。
この本がさらに優れているのは、意志の力を使わせない点です。変わろうとしなくていい。強くなろうとしなくていい。前向きになろうとしなくていい。ただ、起きていることをそのまま見る。催眠術でも同じです。変えようとすると抵抗が生まれ、観察すると自然に変化が起きます。これは技術というより、人間の構造です。反応しない練習は、この構造を極めて日常的な言葉で説明しています。

催眠術カフェの思想編として見たとき、この本は非常に重要な位置に置けます。

なぜなら、催眠体験中に起きる「静けさ」「余白」「感情との距離」を、体験前から理解できるようにしてくれるからです。催眠に入ると、思考が静まり、感情が遠くなり、ただ起きていることを見ている感覚になります。反応しない練習を読んだ人は、この状態を異常だと思いません。むしろ「これでいいんだ」と自然に受け取れます。

催眠術師としての結論は明確です。

反応しない練習は、我慢の本でも修行の本でもありません。人が無意識の反応に振り回されずに生きるための、極めて実用的なガイドです。派手な変化を約束しません。即効性も強調しません。しかし、静かに、確実に、人の在り方を変える力を持っています。催眠術カフェの思想編として、この本を土台に置く価値は非常に高いと感じます。